秘密の地図を描こう

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「紹介してくれてもいいでしょう!」
 この前からインパルスとミネルバのシステムを改修している人を、とルナマリアが言ってくる。
「却下だ」
 それに、レイは即座にこう言い返す。とりつく隙がない、と言うのはまさしくこういうことだろう。
「何でよ!」
「ドクターからの許可が出ていない。本当なら、シンも追い出したいところだ」
 ここで『エイブス』と言わないのは、彼なりに状況を認識しているからだろうか。
「レイばかり、ずるいわよ!」
 彼女の気持ちもわかる。しかし、彼が関係しているときのレイは普段以上に頑固だ。
「何が『ずるい』んだ? あの人の仕事の邪魔をさせないのが俺の役目だ」
 それに、と口にしながら、彼は視線をシンへと向けてくる。
「あの人は人見知りが激しいからな。知らない人間がそばにいると作業効率が落ちる」
 言外に自分のことを非難しているのだろう。
「じゃ、どうしてレイはいいのよ」
「親戚だからな」
 それが何か? と彼は言い返す。
「ずるいと言われても、これは変えようがないぞ」
 さらに付け加えられた言葉に、ルナマリアも不承不承うなずいて見せた。
「でも……紹介ぐらいしてくれてもいいじゃない……」
 だが、あきらめきれないというように彼女は続ける。
「本人がいやがっているのに、か?」
 今回、できるだけ人払いをしているのは、本人の希望だ……とレイは言い返す。
「本当なら、チーフとシンも排除したいくらいだ」
 それが彼の本音だろう。
「……あんたって、過保護?」
 というよりは、お邪魔虫かも……とルナマリアが言い返している。
「仕方がないだろう。人間関係、その他、いろいろあって、あの人はしばらく入院していたし」
 そのときの様子を見ていたから、とレイはかすかに眉根を寄せて告げた。
「だから、本人が望むまではあまり人を近づけたくない。すでに失敗している人間もいるからな」
 それが自分のことだ、と言われなくてもシンにはわかっている。
「どうしてもと言うなら、俺じゃなくて隊長に許可をもらうんだな」
「……それが一番難しいんじゃない」
 レイ以上に過保護なんだから、あの人は……とルナマリアがため息をつく。
「それ以上に、アマルフィさんの許可が取れないわよ」
 全く、と彼女は続けた。
「なら、あきらめるんだな」
 ただでさえ作業が遅れているらしいのに、と彼は言い返してくる。
「それって、シンのせい?」
 ルナマリアが視線を向けてくる。
「……違うよ」
 何で、とシンは反射的に言い返した。
「だって、エイブス主任がそんなことするわけないし、そうなればあんたと考えるのが普通でしょう?」
 本当に違うの? とかののは真顔で口にする。
「……本当に邪魔してねぇよ」
 そんなことをしたら、万が一の時に困るだろう……と続けた。
「俺だって、何を優先すべきかはわかっている」
 キラに自分を見てほしいという気持ちは今でもある。しかし、それを強要して本気で嫌われるのはいやだ。
「……あんた、何か悪いものでも食べたの?」
 だが、ルナマリアの反応はこれだった。
「何で、そうなるんだよ!」
 自分だって考えるときは考える、と言い返す。
「だって、シンだもの」
 それが理由になるのか、と言いたくなるようなセリフを彼女は返してくる。
「ルナ、お前な」
「……まぁ、そう言うこともあったからな」
 反論をしようとすれば、レイがため息混じりにそう言ってきた。そのまま、彼は立ち上がる。
「レイ?」
「休憩時間は終わりだ」
 任務に戻らないといけないだろう、と彼は言う。
「逃げるの?」
 そんな彼にこう言えるルナマリアはすごいと言っていいのだろうか。
「……君につきあっていれば仕事にならない。遊び来ているわけじゃないしな」
 そうだろう、と礼は口にすると、そのまま歩き出す。
「……やっぱり、レイってずるいわ」
 正論だけに反論できない、と彼女はため息をつく。
「なら、しなきゃいいだろう」
 自分も仕事に戻ろう、と立ち上がる。
「ちょっと、シン!」
 そんな彼の背中にルナマリアの焦ったような声が届く。しかし、それをあえて無視した。

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最遊釈厄伝